LMI Group NEWS 2019.11.07

アップデートの未来

株式会社SEN / hotel zen tokyo代表取締役社長 各務 太郎(写真 右)

早稲田大学理工学部建築学科卒業後、株式会社電通に入社。コピーライターとして主にCM企画を担当。2014年、東京五輪開催決定を機に、建築家として都市の問題に向き合いたいという強い想いから同社を退社。2017年ハーバード大学デザイン大学院(都市デザイン学修士過程)修了。2018年株式会社SEN創業。第30回読売広告大賞最優秀賞。著書に「デザイン思考の先を行くもの」。


クレストホールディングス株式会社 兼 株式会社クレスト 代表取締役社長 永井 俊輔(写真 中央)

早稲田大学商学部卒。株式会社ジャフコでM&Aやバイアウトに携わった後、父親が経営する株式会社クレストへ入社。CRM(顧客関係管理)やマーケティングオートメーションを活用して4年間で売上を2倍に拡大させサイン&ディスプレイ業界大手に。2016年より代表取締役社長に就任。

 

株式会社クレスト 取締役 サイン&ディスプレイ事業部長 阿部 一久(写真 左)

2002年よりクレストにデザイナーとして参画し、現在クレストとしては最も社歴が長い。得意なビジネス領域はクリエイティブな二次元デザインと、交通広告関連のプロジェクト・マネジメント。クレストに人生を掛けて業界を変革するために奮闘中。

 

看板と建築の境界線

永井:本日は宜しくお願いいたします。各務さんとは個人的にも、そして会社としても親しくさせて頂いおりますね!さて、私達クレストは企業理念としてレガシーマーケットイノベーション(LMI)を掲げていますが、各務さんは非常に共感してくれますよね。お互いにレガシー産業に参入を図っているので、業界は違えど切磋琢磨できています。

 

各務:ありがとうございます。

 

阿部:各務さんはSEN代表の他に「建築家」という肩書きも追加していますよね。これはどうゆう意図があるのですか?

 

各務:「建築家」って「建築士」と区別して認識している方がなかなか少ないのですが、実は建築士は「建物」をつくるための資格であって、「建物」と「建築」を切り離して考えなければいけない前提があります。建築は、「世の中をこう変えたい」「新しいライフスタイルを提案したい」というような明確な都市へのビジョンがある建物のことを指します。建物が広義で、建築が狭義という考え方です。私はビジョンを伴った建物を通じて世の中を良くしていきたいという強い思いがあり、「建築家」という肩書を追加しています。

 

永井:素晴らしいです。建築家としての各務さんにホテル業界のアップデートについて伺いたいです。私達クレストの行う事業のうち大切な要素の1つである看板業で言えば、そもそも看板は約1200年の歴史があり、今日に至るまでに3度のアップデートが行われてきました。クレストが現状取り組んでいることは、4度目の看板のアップデートです。看板4.0と言ってもいいかもしれないですね。そもそも掲出する効果の測定ができていない看板に対して、エッジコンピューティングとカメラを活用して、分母となる交通量と、視認量を計測してくことでアップデートを促し、これを業界のスタンダードにしていきたいと思っています。各務さんは今後、ホテル業界をどのようにアップデートしていきたいと考えていますか?

 

各務:ホテルは「部屋に泊まる」という行為自体が、昔から全くアップデートされていませんし、これからもその本質は変わらないと思います。永井さんの文脈でいうテクノロジーを活用したアップデートで言えば、ホテル内のオペレーション面やセキュリティ面が確保された点ではないでしょうか。ホテルはテクノロジーで劇的に業界が変わっていくことは、ほとんどないように思います。宿泊するという行為自体が存在する限り、ホテルそのものが何かにリプレイスはされないと考えています

 

永井:なるほど。看板も人が外に出て歩く行為自体が存在する限り無くならないと思います。ただ看板の機能という側面で言えば、テクノロジーの介入余地があり、そういった面では変容していくでしょう。

 

各務:看板であれば、かつて人々が言葉を理解できるようになって看板の中に文字が入ってきた時代がありましたところが多言語の人達がより混在するような近未来社会が到来すれば、実は、識字率が低かった中世の時代にもう一度戻るような気がします。もしかしたら未来の看板は、グラフィックだけのプリミティブな看板になるかもしれませんね。

 

阿部:確かにそうでうね。ぐるっと1周回って原点回帰するかもしれません。

各務:建築の歴史を振り返ってみると、識字率が低かった時代は、誰が見てもその建物の機能が分かるようなファサード(建築の外観)を採用していました。そのような時代に作られた代表的なものが教会の十字架です。十字架は誰が見てもその意味を認識することができます。このような本質が誇張された姿がラスベガスです。ラスべガスはテーマパークみたいな街ですよね。カジノではコインマークやドルマークがありますし、建物すべてが、街をOSと見立てた時のアプリアイコンとしての役割を担っています。

阿部:確かにラスベガスは確立されたイメージがあって、アイコンとしの機能を果たしていますね。言葉がなくても判断がつきます。ということは、建物そのもの自体が看板と言っても過言ではないですね。

各務:仰る通りです。グローバル化が加速されてきている中で、ほぼ看板と建築の境界が無くなってきています。本当の未来は、実は過去に向かってアップデートされるのかもしれません。

 

知性のアップデート

永井:過去に向かってアップデートされていくというお話しは非常に面白いですね。

各務:例えば、原始人の生活様式が私達の未来の生活様式かもしれないですよね。国境も言葉もなく、暮らす所を選ばなくても良い。実は極限的な未来の世界ではないでしょうか。

永井:現代で言えばフリーアドレスやキャッシュレスですよね。また、言語が違う外国人相手にGoogleのリアルタイム翻訳機などを使って何とかコミュニケーションが取れます。原始人が存在していたあの時代の非言語コミュニケーションの本質を、テクノロジーが叶えているということですね。

各務:同感です。しかし、現代はテクノロジーの発達によって便利になり過ぎていて、思考するフェーズを飛ばして得たい情報を獲得できてしまう。知性が劣るという側面は拭いきれません。結果、本当に原始人になることもあり得るのではないでしょうか。

永井:そうですね。テクノロジーに頼ってしまい思考することを怠る行為は本末転倒ですよね。私はここ10年で現代人は頭が良くなったと思います。30年前だったら、今みたいにテクノロジーが発達していなかった。例えば、アナリティクスツールを活用してデータ分析を行い、ボトルネックを抽出し、次の一手に繋げていく。そういった一連のプロセスを踏んだ上での意思決定を行っていなかった傾向にあったのではないでしょうか。現代はそれが可能になったのは当然で、むしろそれがスタンダードになっており人間の脳に対してそういったテクノロジーがアドオンされたように感じています。知性がサードパーティによってアップデートされ、より思考に深みが増していますが、10年後がピークだとも思っています。

各務:それは何故ですか?

永井:例えば、Amazonでシャンプーを購入したらリンスをレコメンドしてくれますし、少しでも興味を持った商品はテクノロジー側が提示してくれます。車も自分で運転せずとも、自動運転ができてしまいます。先程、各務さんが仰ったように、テクノロジーに頼って、アドオンされたガジェットが、思考すること、そして意思決定までをサードパーティに頼ってしまうと、そもそも人間が自ら思考するフェーズを飛ばしてしまうのです。つまり10年後は自分で意思決定をしなくても何とかなってしまう時代が到来するのではないかと予測を立てています。本当に原始人になってしまうかもしれません。

各務:クリエイティブの話をすると、テクノロジーが発達してもクリエイティブは淘汰されないと言われていますが、私はいくらか淘汰されると思っています。クリエイターが物を作る時の思考のプロセスは、実は論理的でシステマチックなんです。最近では人間が書いたコピーよりも、AIが書いたコピーの方が売上があがったケースも出てきました。

 

阿部:テクノロジーによってもたらされた恩恵は計り知れませんが、テクノロジーに全て任せるのはなく、最後の意思決定は必ず自ら行うことが重要ですね。

 

情報獲得のアップデート

各務:現代は情報爆発時代と言われて久しいですが、5Gの時代が到来すれば今よりも情報量が溢れて、人間の情報処理能力が追いつかなくなる可能性が出てきます。そうすると目だけで情報を取得することが限界を迎えると思うんですね。情報を取得する窓口として視覚だけでなく、聴覚にも大きく依存していくことになると考えています。

 

永井:私もそう思います。人間の情報を取得する窓口が今後、耳になるかもしれませんね。以前サンフランシスコに行った時に、ウィンドウディスプレイから音が出ていて驚きました。

 

各務:例えばいま指向性マイクが異常に発達しています。ある店舗の前に来た時に、目が合った人をカメラで追いかけてピンポイントにその人の耳を狙って広告を出すこともできます

 

永井:すごい。スマートフォンなどのウェアラブルデバイスを付けずに、外部から情報を取得することがスタンダードな時代が来そうですね。建築も音を活用する領域に手を伸ばしたら面白そうですね。

 

各務:その通りです。同時に建築が弱い所でもあります。音は都市の景観を汚さないので、音を活用した仕掛けは、今後建築が採用していかなければいけない領域だと思っています。個人的には音のコミュニケーションに特化したメディアがどんどん強くなってくるのではないかと思っています。声のSNSとか。

 

永井:今後、音のメディアは発達していくでしょうね。

 

各務:私もそう思います。指向性マイクが極度に発達していくと、例えば、空港内で日本語、英語、中国語といった言語選択をしなければいけないシーンが不必要になって、然るべき人種に然るべき言語を届けることが可能になりますよね。

 

阿部:それは面白い。具体的に言えば、人種の特定はスマートフォンのメイン言語をビーコンで拾って然るべき人種に言語を届けるのでしょうね。そうするとクレストの社会的意義を昇華できそうです。そもそも看板の本質は、「この商品を知らない人に知らしめる」ことを広く告げることです。AIDMAの法則で言えばAの部分を担っているので、必ずしも目から情報が入る従来型の広告物だけを商材として扱わなくてもいいことになります。音の広告を扱う看板屋があってもいいですね。

 

アップデートのファクター

永井:アップデートの本質を考えた時、私は周期も重要なファクターの一つだと考えています。例えばファッションの文脈で言うと、デニムのローライズとハイウエストが10年周期で交互に流行っていますよね。

 

各務:ファッションのサイクルは完全に数字で見えてますよね。

 

永井:靴下もです。80年代のお洒落な人達は本当に靴下を履いていなかった。イノベーションが起き、短い靴下が開発されて、私達はあたかも靴下を履いていないように見せることができるようになった。実は履いているのにも関わらず。そして時代に多様性という概念が出てきたことによって、価値が分散されていく。これは価値のアップデートですね。

 

各務:仰る通りです。そのような点で言えば、デザインとアートの境界線に通じます。デザインは課題を解決するための道具であり、アートは自己表現を指します。靴下の話しは、完全にデザインです。「お洒落の一環として靴下を履いているように見せたくない」という課題を見事に解決しています。

 

阿部:デザインの力と価値の向上が、アップデートを加速させていくように思います。私達の業界で言えば、光っている看板が今後デジタルサイネージに淘汰さていくのでしょうね。

 

永井:もっと未来予測をすれば、デジタルサイネージから有機ELに変わり、光るポスターが流行って、更にその先の未来では、空間に投影できる機器が登場し空間がコンテンツで埋め尽くされる時代が到来するのではないかと見立てています。一見最先端のように見えますが、実は機器の統廃合が活発になりハードが無くなっていくことと同義です。私が今語った、業界への未来予測は、先程各務さんが仰ってた、極限的な未来は原始人の時代に回帰していくという仮説と本質は同じですね。

各務さん、本日はありがとうございました。

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