LMI Group NEWS 2019.09.20
【前編】中国・深センに見た新小売革命。なぜ積極的に個人情報を開示する?
「当店のアプリはお持ちですか?」とレジで話しかけられポイント欲しさにアプリをダウンロードすると、何日後に、週末のセールのプッシュ通知が届く…スマートフォンが普及し、すっかり日本で日常化したO2O(Online to Offline / Offline to Online)のマーケティング。一方、中国ではアリババがニューリテールを提唱するなど、OMO(Online Merges with Offline)が急速に浸透しています。効率化を追求した深センの新型店舗で見たものは?それは日本の数年後の姿なのでしょうか?深センを視察した株式会社プランクトンR 取締役の川部篤史氏に、クレストの経営企画本部情報システム部シニアマネージャー 江刺家が伺いました。
(構成・写真 / 渡邉 奈月 <ICPコンサルティング>)
株式会社プランクトンR 取締役 川部篤史氏(写真 左)
事業全体を俯瞰しつつ、豊富な知見に裏打ちされた、EC/通販事業での事業構築&製品マーケティング戦略立案・実行を得意とする。AI/オートメーションの活用や、中国越境ECにも明るい。現歴以前は、株式会社JIMOSで通販支援事業部長及びホールセール事業部長(2014~2018)、またマキアレイベル製品開発部長及び健康食品部長(2012~2014)を歴任。他、大塚製薬株式会社(通販・EC部門)、株式会社千趣会(製品企画・開発・仕入/制作企画/EC等)にて活躍。ビジネスブレークスルー大学大学院経営管理修士(MBA)。
株式会社クレスト 経営企画本部情報システム部シニアマネージャー 江刺家直也(写真右)
WEBオープン系エンジニアを経てプロジェクトマネージメントからソリューション提案、プリセールスを経験。その後マーケティング・システム・サービス事業会社にてマーケティング支援からマーケティングオートメーションシステムの導入を経験。クレスト入社後はシステム全般的な側面から全社業務の最適化、サービスの拡充を支援しつつ、esasyの製品企画から販売戦略の立案、サイト作成まで担当し、現在は経営企画本部情報システム部の統括を担当。
無人店舗の開発。中国とアメリカ・日本では発想の立脚点が違う
江刺家:今日は、川部さんに深センの状況について教えていただきたいと思っています。
川部:では先日、深センに視察に行った際の様子を動画でお見せしながら、お話を進めたいと思います。まず実感としては、今年、日本で藤井保文氏と尾原和啓氏共著の「アフターデジタル」という本が出版されましたが、まさにその世界観が繰り広げられていることが実感できますです。日本と中国では次世代の小売に対して発想の根底が違っていると感じました。ではさっそく1店舗目、これは深センにあった「F5未来商店」という路面店の無人店舗です。店内には商品の陳列はなく、大きなサイネージパネルが8面くらいかかっていて、顧客はそこのサイネージを直接タッチして商品を選び、購入します。店舗にやってきて、ECのインターフェイスをさわっているような感じですよね。購入商品を確定すると、決済用のQRコードが表示されるので、顧客は自身のスマートフォンでペイメントサービスにより決済をします。それから指定された番号の取り出し口カウンターでピックアップをします。温かいご飯でも2〜3分後には出てきます。
江刺家:日本にも、昔、そんなハンバーガー自販機がありましたね(笑)
川部:そうなると、店舗の基本的な機能である陳列が不要、決済も不要、するとレジスペースもいらなくなり、サイネージとバックヤードがあればいい。この店鋪で大きな面積を占めているのは実はイートインスペースなんです。しかもイートインスペースのテーブルにも仕掛けがあり、顧客は食べ終わったら、テーブルにあるボタンを押す。すると、テーブルになっている天板が、スーッと奥にスライドして、ディスポーザーが現れる。そこに容器やごみ類を放り込めばよく、イートインスペースですら無人で運用できてしまうんです。いまある店舗タスクを無人化した、というより、無人で運用するとしたら、結局どんな機能が求められるのか、という観点で、店舗というものをくくり直したものだといえます。
江刺家:徹底してロボティクスで合理化したら、こうなりました、という一例かもしれませんね。陳列や決済のほかにも、美観やサービスなど、対人間でしか生まれないは削った印象ですね。味気ないけど、食欲が速やかに満たされるという点では合理的です。昼時のサラリーマンはむしろありがたいかもしれません。しかし、目の前でいま食べていたものが、ダストシュートに流れてそのまま見える形でゴミになるというのは、日本人は抵抗があるでしょうから、チューニングの必要はありますね。
川部:次に、こちらの動画をご覧ください。取材当時の標準型とも言える無人コンビニ店舗です。買い物の流れとしては、まず、入り口のアンロックにペイメントサービスが必要です。無事入店できたら顧客は店舗を回遊して、陳列棚から商品を取ります。人の動きはカメラで捉えてトレースされています。店舗内の顧客の動きを見るという意味ではesasyにも近いですね。そして、顧客はカゴに入れた商品を持って決済専用の小さな部屋に進みます。部屋の天井部に設置されたリーダーで商品についたRFIDタグを一気に読み込んで、金額計算を瞬時に行い、ペイメントサービスで決済をする仕組みなんです。
江刺家:なるほど、この陳列があるタイプの無人店舗は、衝動買いが起きやすいかもしれません。いつもの陳列に、新しい物が現れると手に取ってしまいますよね。一方、最初の飲食店のように、陳列がサイネージで代替されたタイプは、目的のはっきりしている人にはいいと思います。どちらも良いところがありますね。
川部:陳列のないタイプも、サイネージで商品を選んでいる際にプロモーション的にレコメンドされたりするので、衝動買いが起きないわけではないのです。無人であることを前提にして、店舗の求める価値観を変えているのが、先ほどの飲食店の事例です。
江刺家:なるほど。中国は無人が前提なんですね。一方で、日本の無人コンビニは人を排除しようとはいないんですよね。人の作業を機械に置き換えただけです。また、アメリカのAmazon Goは人間のサービスやクオリティを高めるために、ロボットがサポートするイメージですね。アメリカでは陳列に気を配るオペレーションが薄いためか美しくないこともあるため、そこに人間が時間を割く代わりに、会計などを自動化するという発想です。
川部:立脚点が、日本、アメリカと、中国とではだいぶ違う気がしますね。
データは誰のもの?積極的に開示したがる中国人、その理由とは。
江刺家:さっきから拝見している動画を見ているとスマートフォン(デバイス)を持っていることが条件になっている印象ですね。ユーザー情報と結びつけることがやはり目的なんですかね?
川部:そうですね、これらの無人店舗ではデバイスと結びついて行動するのが当たり前になっています。デバイスから得られるデータについては、日本では、各サービス毎にトッププレイヤーがいて、どう結びつくか、どうシェアを取るか、戦っていますが、中国ではアリババグループ、テンセントグループという全体を包括したガリバー2強がいてデータを握っています。例えば、ショッピングモール、CtoC物販などのECに加えて、リアル店舗決済、さらにはSNS、外食、デリバリー、シェアライド・・・すべて両グループが構築していて、どこで誰がいつ検討して、買ったのか、どう移動したのか全部把握しています。サービス全域における決済と位置情報をこのレベルと規模ですべて持ち合わせて具現化している国という点でのは、中国こそが世界のトップといって良いと思います。
江刺家:ここまで網羅的に情報を収集できるのであればできれば、個人の信用情報も評価できますね。
川部:そうなんです。中国では個人情報を開示するとともに利用履歴を蓄積していけばいくほど、基本的に善良な国民に近づいていくことになります。例えばデポジット不要になったり、限定サービスを受けられるようになる。日本は、標準的なサービス品質が満足できるレベルにある前提がありますが、中国はそうではないため、よりよりサービスを優先的に受けられるというインセンティブは強力に作用し、利用者が広まりやすかったと思います。
江刺家:一方で、ヨーロッパやアメリカでは、データの保有者はユーザーだという意識にシフトしてきていますね。日本もそれに影響を受けています。esasyは2015年ごろから開発に着手し、当初から個人情報には最大限の配慮をしていました。ようやく近年、個人が特定できないようにマスクすればOKとガイドラインが整備され状況が整ってきていたのですが、2018年にヨーロッパからGDPRの流れがきました。日本のデータ関連のサービスは、いま、その動向を見守っている感じでしょうか。一方、中国は独自の路線を突き進んでいます。
川部:データ全体主義だから、中国は、集めたデータを、どのポイントでマネタイズするか、という考え方が圧倒的に自由なんです。WeChatもアリペイも、支払う側、もらう側、両方の利用料を無料にしたから、これだけのデータを集められたんです。自分たちのグループにマネタイズポイントが多数あるから、別にこのサービスは例えマネタイズしなくとも無料でいいや、と思えるのでしょう。
江刺家:日本のように縦割りの企業構造では、難しい発想かもしれませんね。自社でマネタイズをしないとサービス化できない。
川部:アリババもWeChatも、縦割りではなく、買収を繰り返して大きくなっていっていますからね。
江刺家:中国は、企業運営自体がアジャイルともいえますね。1つ1つの企業がマイクロサービスなんですよね。それをAPIでつないで、やってみて、合わなかったら切り離す。
川部:やってみなはれ、の精神ですね。