LMI Group NEWS 2019.08.20
【前編】いまLEDビジョンを導入する理由~高単価で売れる理由はアートだから。ブランド価値をデジタルで表現する時代へのシフトが始まった~
クラブシーンでは当たり前の演出となったLEDビジョン。このLED(発光ダイオード)を用いたフルカラーのディスプレイは、屋外・屋内問わず設置できることから、店頭や店内での顧客との新たなコミュニケーション手段として活用する事例が増えています。今、LEDビジョンを店舗に導入すべき理由とは?クラブから店舗までLEDビジョンによる空間演出を多数手がけてきたDGX-japan代表の柏木大氏、クレスト代表の永井、サイン&ディスプレイ事業部の奈良が、先端事例を踏まえて解説します。
(構成・写真 / 渡邉 奈月 <ICPコンサルティング>)
DGX-japan代表 柏木 大(写真 中央)
ITベンチャー企業に勤め、デジタルマーケティングを経験し、独立し開業。現在は、デジタルディスプレイのDGX Japanの日本法人代表等も務め、デジタルマーケティングで3億円以上の売上をあげる等、実践的な手法に精通。
株式会社クレスト 代表取締役社長 永井 俊輔(写真 右)
株式会社ジャフコでM&Aやバイアウトに携わった後、父親が経営する株式会社クレスト入社。CRM(顧客関係管理)やマーケティングオートメーションを活用して4年間で売上を2倍に拡大させサイン&ディスプレイ業界最大手に。2016年より代表取締役社長に就任。
株式会社クレスト Sign & Display Division Field Sales 3 Manager 奈良 道宣(写真 左)
革製品を扱うショップの店長から、アパレル関連のビジュアル制作を志しクレストへ。マネージャーとして店舗でのLEDビジョンの導入を強力に支援。
市場全体では衰退期のLEDビジョンも、小売業界ではこれから
奈良:今日は柏木さんと、LEDビジョンの「今」と「これから」についてお話できたらと思っています。
永井:市場におけるLEDビジョンの「今」ってどんな位置付けなんでしょう。世の中のすべての製品は、市場に投入され、流行っては廃れていきます。これは、製品ライフサイクルの図ですが、音楽を配信する製品では、レコード、CD、ダウンロードと順に山がきて、今はサブスクリプションという山がきています。小売店舗では、ウィンドウディスプレイから始まって、今、デジタルサイネージにシフトしつつありますが、この流れは10年くらい前からきていると思っています。LEDビジョンは、いま、製品ライフサイクルのどの位置にいると思われますか?
柏木:日本の市場でいうと、衰退期かな。もう後半。
永井:もう後半にいると思われますか!
柏木:市場全体では成熟期のピークを過ぎたと思われます。しかし、業界毎に状況は違っていて、アパレル業界は、まだ成長期に差し掛かったところと考えられます。一方、私たちDGX-japanがメインとするクラブ業界などは、既に衰退期に入っています。
永井:クラブ業界では、入っていて当たり前だよね、という認識なんですね。
柏木:そうです。私たちはパチンコ業界も手がけていますが、パチンコ業界も衰退期です。
永井:確かに、10年前からやっていますね。
柏木:業種だけでなく国ごとにも事情が違います。例えばフィリピンなどの後進国は、今、成長期に入ったところです。ピッチの粗い、性能の低いLEDビジョンが出回っています。一方、中国の市場は進んでいて、高性能な製品がどんどん出てきています。この中国の高性能なLEDビジョンが急激に単価を落として、フィリピンなどの後進国に急速に輸出され始めています。
永井:なるほど、確かに後進国というのは成長期のカーブが急になる傾向にありますね。例えばiPhoneなどがよい例ですが、インターネットも電線もない環境に、突然最先端の製品が投入されて、急速に普及するという現象はよくあります。日本が高度経済成長の中で、10年、20年かけてきた成長を2~3年で遂げてしまいますね。
柏木:まさに中国・深圳などがいい例ですね。街自体が成長して、一気に日本を追い越してしまう。
永井:なるほど。今までのお話をまとめると、日本のLEDビジョン全体の市場でいうとすでに衰退期に入りつつある。一方で、アパレル、というより小売業界全体に言えるかもしれませんが、テクノロジー化に5年くらい遅れているから成長期であるということですね。eコマース化もそうですが、ライフサイクルの山が一個後ろに来ている。小売業界はあと5年くらいでピークを迎えるのでしょうね。
柏木:そうですね。差があります。
奈良:私も小売業界においては、今が転換期で、成長期に入ってきたと感じています。小売業界の店舗は「コンテンツを運用していく」ということに遅れを感じています。遅れを取り戻したいし、私たちもノウハウをお伝えしたい。そんな中で、LEDビジョンは、取り組みやすいツールなんですよね。
永井:会計的な観点からは、今、小売業界全体、昔ほど利益が出なくなっていますから、損益計算書をきれいに見せたい、費用を抑えたいというニーズから普及が進んでいる可能性は十分考えられます。これまで、小売店舗のシーズンビジュアルを変えるための支出は、工事費など損益計算書の「費用」として計上されていました。一方、LEDビジョンなどのデジタルサイネージは、投資が何百万、何千万となりバランスシートの「設備投資」にあたります。すると、損益計算書では「減価償却費」として計上され、年間の利益を圧迫する「費用」は薄くなります。
柏木:確かに、業界全体の売上げは、パチンコ業界もクラブ業界も結構下がっていますね。
永井:クラブ業界もそうですか。
柏木:結構下がっています。クラブで1年前位に流行っていたジャンルがあるんです。「EDM」といって、EDMを流せばみんなクラブに足を運んでいた、という時期がありました。しかし、ブームが終わって、今、各クラブは、ジャズやヒップホップなどの別ジャンルに進み始めていますが、結局、どのジャンルでお客さんが来るか、わからない状態になっています。みんな迷走中。
永井:クラブだけでなく、洋服もそうだと思います。どこもぼちぼち分散していますね。世間的にEDMがよしとされているから、EDM聞こうっていう時代から、自分の好きなもの聞こうぜっていう時代に切り替わっているんですね。誰かがいいというから買うわけではなくなった、というビジネスシフトが起きていますね。
LEDビジョンは「オブジェ」。アートを配信するキャンバス
永井:先ほど奈良くんから、コンテンツを配信するという話がありましたが、私たち、クレスト社は、サイン&ディスプレイ業界にいます。柏木さんは広告を配信するためのプラットフォームを売るお仕事をされています。
柏木:私なりの意見なんですけど、私が考えるLEDビジョンって、オブジェなんですよ。情報掲示板じゃなくて、オブジェ、というのが私たちの売り方です。
永井:なるほど、LEDビジョンはオブジェですか!
柏木:そうです、私たちDGX-japanのLEDビジョンが高単価で売れる理由は、アートだからなんです。例えば、Lushさんの事例で言ったら、LEDビジョンを情報掲示板にして、セール情報たくさん流しましょう、と提案したら、たぶん買ってないですよ。やはり、クリエイターが表現したいお店、お客様に伝えたいブランド価値やアートがあって、お客さんにLushを好きになってもらって、お店に来てもらうっていうコンセプトで提案します。LEDビジョンをいろんな業者が扱っていますが、アプローチが間違っています。情報掲示板として売っているから売れないんです。あくまで私たちはアートとして売っています。だからお客様が気に入ってくれているのかなという感触があります。
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永井:感動しました。アートを流す、要は、キャンパスを売っているんですね。デジタル化が進むと、アーティストはキャンパスに直接描くのではなくなって、制作したアートをいつでもLEDビジョンというキャンバスに貼り付けられるようになる、ということですね。「アート」というと広い表現ですが、具体的には?
柏木:提供する人たちの思い、そして、ブランドの価値ですね。
永井:なるほど、ブランドとして、企業自身の主張、理念、志、思いといったものを、世に発信するコンテンツがアートということですね。
柏木:そうです。LEDビジョンとデジタルサイネージの圧倒的な違いは、LEDビジョンはオブジェ、ブランド価値を伝えています。一方、デジタルサイネージやモニターは情報掲示板、セール情報などお客様に必要な情報を伝えています。これは大きい違いですね。
LEDビジョンは情報掲示板ではない。セール情報はスマホでいい
奈良:今後、AIやIoTなどのテクノロジーと融合して、LEDビジョンの用途自体が増えたり、多様化していくことは考えられますか?
柏木:考えられますね。例えば、今、DGX-japanではモーションセンサーを使った製品を開発中です。これからクラブなどの業界では、アートと実際の人の融合が、1つのトレンドになりそうです。人をリアルタイムで撮って、人にいろんな映像を組み合わせるということを、モーションセンサーで実現しようとしています。
永井:なるほど、VR(仮想現実)でもっとバーチャルな世界の中に入っていきましょう、というのと同じトレンドかもしれません。さらに、技術面ではこれから 5Gがやってきます。デジタルとリアルの融合が進む速さも、5Gでだいぶ変わると思います。リアルタイムに動画を流せるようになれば、大容量のサーバーもいらなくなり、エッジトゥーエッジで配信できより手軽になります。となると、小売業界でのLEDビジョンのニーズは、まだまだ増えるのでしょうか。
柏木:アートとしてはニーズは増えていくと思います。情報掲示板としては衰退する。限界があります。
永井:情報は確かに、店舗前を通ったときに、お客様の手元のスマホにポップアップで出れば十分ですね。
柏木:今のお客様は、だいたい7割くらいがネットで買うものを決めて店舗にきています。では、なぜ店に来るかというと、本当にその商品がいいのかとか、面白さとか、その場の空気感でなどを体験したいんだろうなと思うんです。だからアートなんですよ。御社が手がけている計測も短期的な売上をあげる上で非常に有効ですが、最終的にお客様がアートを気に入っているのかどうか、そこは計測が難しいところですよね。
永井:「店舗のショールーミング化」、「モノ売りからコト売りへ」。この辺のワードに近くなってきますよね。今、あらゆるツールが出てきて、あらゆるものがKPIで測れる時代です。ウェブサイトの購買も、何人が来て、何人がどこまで見たかがわかるのが当たり前です。私たちクレスト社ではリアル店舗の購買を測ることができます。カメラを付けることで、何人が前通って、何人が見て、何人が入りました、と数値化できます。確かに売上として結果に出ます。しかし、お客様の心を動かせているのかどうかは、単純に商品を見たかどうかで数値化できない世界観がありますね。