CEO 2019.06.29

社長Blog Vol.13: ディスラプションと最適化

 私達クレストの企業理念であるLegacy Market Innovation® の中に存在するミッションにはこう記載されている「私たちクレストは、全ての人々、産業、地球に対して、本質的に最適な価値を提供します。」本日はこのブログポストで、この「本質的に最適な価値」と昨今のデジタルディスラプションの関係を記載していこうと思う。

 

 まえがきとして触れさせていただきたいのは、私達のようなレガシー産業には到底見合わないような豪華なオフィスについ先月に引っ越してみた。社員にとって非常に満足度の高い環境を提供することができたということは当然のこと、顧客などすべての取引先の皆様にとって、「遊びに行ってみたいオフィス」の候補の1つに入ることになったと感じている。自社の社員にとっても、「行かなければいけないオフィス」ではなく、能動的に「行きたいオフィス」になっていることで、テレワーク制度を取り入れながらも、オフィスにしっかりと人が集ってコミュニケーションをとるということがうまくバランス出来たと感じている。

(お陰様で来客頂ける量も増加することによって、移動時間のコストが大幅に削減されたというP/Lインパクトを得たのは想定外の効果であった。)

 

 

それでは、本題に移ろう。

 

音楽産業のデジタルディスラプション連鎖

 

 かつて音楽市場は、ジュークボックスなどからはじまり、そしてレコードなどの音の保存媒体の発明によって一般のユーザーが所有する、という概念が生まれ、それからLP、カセットテープ、CDというこの音の保存媒体の進化(アナログからデジタル媒体の進化も含めて)によって、市場規模を一気に成長させた。その後CDの普及から、音楽をダウンロード、そして、ストリーミングという概念一気に切り替わった。

 

以下添付のデータは、米国の音楽産業の市場規模推移である。是非PCのブラウザで見ていただきたい。https://www.riaa.com/u-s-sales-database/

 

 

 

U.S. Sales Database

 

 2000年〜2003年頃までの間にWinny、WinMXなどの違法サイトが普及した時代があったことは読者の一部の方々は記憶の片隅にあるかもしれない。それらは違法でありながらもある意味この違法ダウンロードサイトの普及が音楽産業のディスラプションの発端となったのだろうと私は考えている。

 CDはこの2000年から驚くようなスピードで市場規模を縮小され、違法ダウンロードサイトの排除後の混沌とした期間に、アップル社がiTuneを通じて「音楽を1曲ごとにダウンロードして購入する」という概念を生み出した。これが2004年にこのグラフの中に突如として現れるDownload Singleという項目だ。
そして現在、インターネット回線の高速化とともに音楽はストリーミング再生で課金をされるようになり、そして現在我々はそれを月額定額で聴き放題のサブスクリプションで聞いている。また、再生でそもそもお金を求めないコンテンツ提供者も現れ、広告収入などで収入を得られるYoutube等のプラットフォームもまたディスラプションと言えるであろう。

一方で2016年からサブスクリプションでの売上が増加し始め、市場規模を取り戻しはじめている。市場のプレイヤーもAppleだけではなくSporifyなどを代表とする様々なPaid Subscriptionサービスが台頭しはじめている。

 では、音楽の流通量が減ったのか?と言うとそういうわけではない。これまで、コンテンツを配信させるために我々ユーザーが支払っていたCDのハードディスク費用、ジャケットの費用、1曲を聞きたいがためにわざわざアルバムを買っていた費用、それらが売られる店舗の利益、物流コスト、これらはすべて音楽の市場規模の計算に含まれていただけである。実際音楽のコンテンツ提供者は毎年増加し、そしてスマートフォンの普及によって、我々が音楽に触れる機会は以前にもまして圧倒的に増加していると言える。

 LP→カセットテープ→CD→ダウンロード→サブスクリプション という流れで、驚くような勢いで音楽というコンテンツはこのチャネルという名のビークルを乗り換えて、コンテンツメーカーから私達の耳に音楽を供給し続けている。

 

百貨店のデジタルディスラプション

 次のデータは、読者の方々が関わることが多い百貨店に関するデータである。小売業界界隈で働く方々にとっては見慣れたグラフだろうが、改めてここでポイントを確認したい。

経済産業省 経済解析室 百貨店 衣料品販売の低迷について
https://www.meti.go.jp/statistics/toppage/report/minikeizai/kako/20170217minikeizai.html

 

 

 百貨店衣料品販売額のピークは1991年の約6.1兆円であり、2016年は約2.9兆円とピーク時の半分程度になる。2004年と2014年で比較すると、「被服及び履物」の消費支出額は世帯主が30歳代の世帯を除くすべての年齢階級層で減少。また例えば「婦人服」については、購入数量は増加している。しかしながら、1着当たりの購入単価は大きく低下しており、消費者が低価格志向になっていることがうかがえる。

 何がこの百貨店という産業をディスラプトさせたのか。ファストファッションの台頭などにより、
・ディスカウントストア
・EC
・D2C
・サブスクリプション

など、私達が洋服を着る回数(洋服を着ない日は無いことを前提に、365日×人口の分だけ洋服は着られている)はそう多く変化することが無いのにもかかわらず、音楽産業同様、この洋服が清算されてから、私達の体に届けられるまでのビークルが変わり、そして所有するという概念こそが変わりつつある。

 

既存市場の縮小は破壊ではなく「最適化」と捉えてほしい

 デジタルディスラプションによって既存市場規模のほとんどが縮小する。しかしながら、この「縮小」を悲観的に自らの産業が破壊されてしまった、と捉える考え方が、もはやレガシーへの執着の現れである。

 例えば音楽ユーザーの目線にたってみると、聞きたい時に、聞きたい音楽が、ストリーミング課金で聞ける。これまでカセットテープやCD、パッケージなどの製造コスト、販売店の利益など、コンテンツ以外のものにユーザーが払っていた中間コストはこのデジタルディスラプションによって概ね排除され、最適な金額で聞くことができるようになった。確かに既存市場は縮小したが、コンテンツをメーカーからユーザーに安価に届けられるようになり、そして更に所有ではなく再生回数での課金という選択をすることができるようになったことで、「最適化され、正しい姿になった」のである。

 ディスラプションを「最適化」と捉えることが重要である。音楽産業全体の市場規模は確かに縮小しているが、その中で新たなストリーミング再生市場が生まれ、そして後発のSpotifyなどのディスラプター生まれ、新たな市場を形成しゆくのだ。これが新産業の創出である。

 

自らの手によって既存産業がディスラプションを引き起こす

 私達クレストのサイン&ディスプレイ事業では、看板やショーウインドウディスプレイ業界が自らの産業をディスラプションする可能性をも持っている製品であるesasy(エサシー)というカメラを開発しているリテールテック事業部(リンク先はリテールテックのブログへ)というものがある。
自社内にディスラプターとなりうる事業を共存させているという、見方によっては非常に危険な戦略をたどっている。これも当然既存市場規模の縮小(ならぬ最適化)に大きく寄与することを自らが理解してこの道を選んでいることにも触れておきたい。

リテールテック事業部が提供しているプロダクトは、看板やリアル世界の広告物、ショーウインドウディスプレイの前の単位時間あたりの交通量を計測、視認量を計測、入店量を計測、また棚や広告物ごとのそれを取得することができるものである。つまるところ、これらの普及によって、リアル世界の広告物の価値が計測されるようになる。
どんなに投資をかけても全く視認量を得ることができない広告物がわかり、それは事業主にとって不要な広告となる。交通量の少ない店舗前のショーウインドウディスプレイへの投資は当然相対的に少なくさせるべきである。
顧客のリピート頻度を計測することで、ポスターデザインの変更ケイデンスをもっと減らすこともできる。つまりこれらは市場規模の縮小を起こすことにつながることは明白であろう。

我々は自らの手で、自らの既存市場の規模を縮小させているとも捉えることはできるが、あくまでも我々にとっては「本質的に最適な価値」を提供しているに過ぎないことを忘れないでほしい。そして我々はこの市場の上に「リテールアナリティクス」という成長市場を生み出しているのである。
 音楽や看板に限らず、あらゆる産業で、ディスラプションやイノベーションによって、市場の最適化という名の縮小は起こりうることは間違いない。

しかし、いつまでもレガシーから得る利益の恩恵を受けていては、そこに未来はない。気づいたらその市場から撤退を余儀なくされることになるだろう。

このバランス感覚を持つことが、我々に今期待されているのだ。

 

株式会社クレスト
代表取締役社長 永井俊輔

 

 

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